長時間練習…それでも体育会系指導が勝てないワケというのには納得するものの、少しわだかまりがあります。

スポーツとかだと、好きというのがわかるけれども、所謂サラリーマンの会社での仕事とか、受験勉強だったりすると、好きで好きでたまらないということは考えにくいので、どこまで自律的にできるのかというのが疑問だからです。

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180307-OYT8T50008.html

「中学、高校の部活動を指導していた頃、『不在の監督の代わりにベンチに置いた人形に挨拶あいさつする』(という不条理な)儀式を強いるバスケットボール部の指導者や、砂利の上でタックルの練習をさせるラグビー部の指導者の姿を見ました。私も指導者になったばかりの頃は、『俺について来い』と選手を引っ張っていました。早く成果を出して認められたい思いが強かったので、そうした指導になってしまいました。このやり方には即効性があり、一定の成果は出ました。しかし、それより上を目指しても成果を出せなかったのです」

「(『俺について来い』の指導で育った)『指示待ち』の選手は、自分では考えないので、指示されたことをこなす以上の成長はできませんでした。その上、頭ごなしに『意味はわからなくても黙ってやれ』と命令して従わせるやり方は、(選手にとって)楽しくないので、やる気も引き出せませんでした。『(強敵を倒し)さらに上に行くためには、どうすればよいか』を選手が自ら考え、創意工夫する道を私がふさいでいました」

「抑圧的な指導をやめて分かったのは、選手は、自律的に始めたことにこそ充実感を感じ、没頭する。仲間と目標に向かっている一体感を得られれば、それが体力的、精神的にきついことであっても『楽しい』と感じて頑張ることができる、ということでした」

「人は好きなことを、夢中になって没頭して、楽しんでやっているときの集中力は高い。こうした状況は『フロー』と呼ばれ、最も良いパフォーマンスができるといわれています。だから、『スポーツを楽しむ』ことは上達や勝利につながりやすいのです」

「アメリカの心理学者、エドワード・デシ氏らの研究でも『やること自体が楽しいから取り組む』という内側から湧き上がった動機は、最も力になるとされています。この研究では、『できないと罰を与える』『できたら報酬をあげる』という『アメとムチ』的な指導は、『やること自体が楽しい』という自律的な取り組みよりも、やる気を引き出す要素としての順位が低い、としています」

「『アメ』も駄目なのかと意外に思われるかもしれません。アメリカの心理学者、マーク・レッパー氏らの実験ですが、絵を描くのが好きな園児に『上手に絵を描けたら賞状をあげる』『何もあげない』という条件を分けて比べてみると、何ももらえなかった園児は意欲に変化はありませんでしたが、賞状をもらった園児は『自律性が損なわれ、意欲が低下した』という結果になりました」

「自分自身が楽しむために絵を描く行為が、報酬欲しさの『仕事』に変わってしまうと、自律性は失われます。心理学用語で『アンダーマイニング効果(基礎を掘り崩す)』といい、『褒めて伸ばす』ことにも注意が必要であることを示しています。上記の例では『うまく描けた』という結果だけを褒める(賞状を与える)と、『褒められたいから』という報酬への期待が生じてしまいます。この場合は、描くまでの『努力の過程』を褒めることが、自律性を損なわないやり方だとされているのです」

「長時間の練習や授業前の早朝の練習(朝練)には効果がないと感じています。長時間で休みのない練習では、選手たちが集中力を欠き、疲労もたまってケガにつながりやすくなります。大事な試合前にケガをすれば、結局、勝利にはつながりません。一方、朝練は学生の場合、必ず(その後の)授業がおろそかになります。だから、帝京大ラグビー部ではやっていません。授業は記憶力や理解力のトレーニングにもなります。豊かな人間になるためにも、スポーツに費やす時間と勉強に費やす時間のバランスが大切なのです」

「練習時間を増やせば、技術力が向上するというのは間違った考え方だと思います。練習では状況に応じたプレーや戦術を学びますが、脳がボーッとした状況では、覚えが悪く、効率も悪くなります。睡眠時間の確保も大切です。疲労回復だけでなく、学生(や生徒)の場合は(身体の)成長にも不可欠だからです」

「選手に競争させて少数の勝者をつくり、それ以外の落ちこぼれを作るというやり方では、(チーム内が)ギスギスした人間関係となり、組織力は低下します。『カメ型』の選手は焦らせないようにして、少しだけ上の目標を設定して導いてやると、急にできるようになるときが来ます。『ウサギ型』は油断したり、チャレンジ精神が落ちてしまったりするので、こちらにも少し上の目標設定をしてあげて、チャレンジ精神をくすぐっていく方法で導いていきます」

「自分が“体育会系”タイプの指導を続けていた頃、(心の中にあった思いは)『子どもたちに勝たせたい』ではなく、『俺が勝ちたい』でした。自分が認められたくて、目の前の結果にこだわっていました。今は結果だけではなく、選手たちが卒業して、社会人になってからも活躍することが喜びになっています。このような選手たちの大学時のゴールと将来のゴールの『ダブルゴール』に指導者としてのやりがいや価値を見いだせば、目先の結果だけにとらわれず、選手たちとともにスポーツを楽しみながら、勝利を目指す組織作りができると思っています」