朝井リョウの正欲、面白い小説だけど、水しぶきに性的興奮を覚えるというのがイメージできなかったのと、クライマックスにどんでん返しを用意していなかったのが残念でした。

マイノリティの中でも、マジョリティとマイノリティの格差があって、マイノリティのマイノリティは、結局、逃げ場がないという絶望と、そもそも、マジョリティってなんだろうという素朴な疑問については、共感ができます。

多様性のある社会とか言っている人たちの、傲慢さを常々感じていたので、なおさら、そう思うのかもしれません。

そして、現代社会、というか、人間社会が、マジョリティになるように振る舞うという窮屈さがあるんでしょうね。

 

ただし、マイノリティのマイノリティの具体例として、水しぶきで性的な興奮を得るというのは、あまりにもイメージしにくかったです。興奮だけなら理解できても、性的なものにはならないんじゃないかな、と思うんですよね。性的であるということは、何らかの形で生殖に結び付く要素がある前提じゃいないんですかぁ。フツーに、「水しぶきで興奮するんですよ」と言ってしまえば、「変な趣味だね。何がいいのかわからない。」ぐらいの反応で終わりな気がします。

それと、最後、「古波瀬」が誰かで、サプライズが欲しかったですね。えっ、この人が、みたいなオチがあると良かったんですけどね。私なら、「右近」か「検事」にしますが、そういうのは、皆さん、あまり好きじゃないんでしょうか。

 

あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

しかしその繋がりは、”多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった――。

「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

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