経営の力学、経営を力学になぞらえるところは面白かったです。そのせいで混乱するところもあったけど、アイデアはいいですね。

あまり期待せずに読み始めたけど、いろいろと考えさせられることも多く、ためになりました。

ロングセラー『経営を見る眼』の姉妹版。前著は組織の構造・機能を読み解く画期的入門書であったが、本書は組織に作用する力を読み解き、組織を動かす決断の勘所を示す一冊。伊丹流の経営の原理・原則がわかる。

力学の視点から現場の複雑な現実を読み解く。カネの論理、情報の論理、感情の論理が絡み合って生まれる「経営の力学」。この力学を見据えた上で、決断を行なうための1冊。

私自身が感じたことを、備忘録として目次に箇条書きにして記録しておきます。

力学という視点・・・比喩としては面白いけれども、力学で全部を表現しようとするのは難しい気がします。

第1部 組織と人間の力学
人は性善なれど弱し・・・性弱説って、なるほどなと思いました。善にもなるし悪にもなるかよわき存在というのは同感です。だから、必要以上に追い込まないような柔らかいマネジメントシステムが必要なんだと思いました。この柔らかいマネジメントシステムを、コントロールシステムと言ってもいいのですが、どう構築するのかが成長のポイントなのかもしれません。あとは、揺さぶりのマネジメント(かき回す→切れ端を拾い上げる→道をつける→流れをつくる→留めを打つ)というのも納得で、自分のスタイルとして確立したいと思いました。
構造が情報とパワーを歪める・・・組織を作ると、そこで、セクショナリズムが生まれるわけですが、組織で区切らないと有効なマネジメントできないから、難しいところですね。
現場と経営との距離・・・断片の情報から全体を類推する力が経営者には必要なんですね。あとは、組織をなるべくフラットにするか、もしくは、非常にフランクな経営者を演じるという対策もあるかもしれません。
人を見る眼、人を育てる眼・・・斜め上の上司の役割が大きいというのは納得。でも、人が育つ3つの条件が、「高い志」「大きな仕事の場」「大きな思索の場」とあるけど、これはちょっと疑問。私は「成功体験」だと思っています。「成功はすべてを正当化する」というのはある意味で真実、少なくとも、説得力のある論理だと思います。

第2部 市場と戦略の力学
顧客インの技術アウト・・・マーケットインで考えるという表現がくせ者だという意見には同意。まだ、マーケットがないときがチャンスですから。
人の行く裏に道あり花の山・・・人と違うことをやるというのは良い戦略だとは思うけど、勇気のいる戦略でもあると思います。なかなか決断できないですよね。
神は細部に宿る・・・((+_+))
カニは甲羅よりも大きな穴を掘れ・・・オーバーエクステンションが大きな成長には必要というのはそうだと思うけど、なんとなく、しっくりこないですよね。

第3部 資本と社会の力学
資本市場と向き合う・・・((+_+))
M&Aの心理学・・・日本とアメリカでの合併と買収の違いは、確かにそうだと思いました。
グローバルで、ボーダーフル・・・カネはボーダレスだけど、ヒトはボーダフルというのは、確かにその通りですね。グローバル化が進めば進むほど、ローカライゼーションにニーズが高まる気もします。グローバルで勝つにはローカルで強くないといけないですね。
お天道様に恥じない経営・・・本当のところ、どうなのかはわからないけど、そうありたいですね。

第4部 経営改革の力学
歴史は跳ばない、しかし加速できる・・・((+_+))
「ここまでやるか」のつるべ打ち・・・徹底することは難しいですね。例外を認めることは安易だし、軋轢も生じないので安易な意思決定ですから。
改革リーダーの三つの方程式・・・切断するだけのバイタリティがあるか、原理があるか、決断ができるか、この3つを方程式とすることに違和感はあるものの、バイタリティ・原理・決断が改革の基本要素であるということは納得です。

第5部 決断の哲学
決断の本質・・・メンタルマップが歪んでいることを認識しつつ、決断(=判断+跳躍)するということが大切
跳躍の哲学・・・株主じゃなくて社員のためというのが本当の大義な気がしました。もちろん、投機的な動きをしない株主なら別ですけど。
決断の器量・・・引き際の話はその通りと思えますが、実践できるかどうかは、かなり難しいですね。

経営の公理・・・「企業の本質」「現場の本質」「経営の本質」の3つ。再度、自分の中で消化が必要そう。

最も、詳細に書かれているレビューは以下のサイトです。

http://blog.livedoor.jp/namuraya/archives/51657595.html

・驕りと慮りの力学が示唆するのは、「驕りの傾向のある人間を地位につけてはならない」ということと、「必要でない地位はつくってはならない」ということであろう。

・集中と分権、事業部制と職能制、市場軸の組織編制と技術軸の組織編制、など経営システムの構造をつくる際の基本方針自体を、長期的視点でダイナミックにゆれ動かすのである。(中略)なぜ、ゆれ動くのか。組織という大きな船では複雑なバランスをつねにとり続けるわけにはいかないからである。大きな船の基本的なかじ取りは、ある時点では一つのほうがいい。たとえば、集権を強調すべき時期がある。そのときに、「分権も等しく重要」といってしまうと組織はかえって混乱する。行き過ぎを覚悟で、あえて集権だけに軸足をしばらくは置いてしまうことが必要なのである。そして、時間が経ったら分権に軸足を移せばいい。

・私は人が育つプロセスの本質は「自育」のプロセスだと思っている。自分で育とうとしなければ、人は育たない。実は、人は育てるのではなく、育つのである。もちろん、育つことを助けることは経営者にもできるだろう。それを「人を育てる」と表現するのである。

・売上とは、顧客からのその企業の製品への支持の大きさを金銭表示してくれる指標である。売上が低迷するということは、いかにコストを切り詰めて利益を捻出できたとしても、そもそも社会がその企業の製品への有用性を認めてくれていないことを意味している。

・手配師の力学。メーカーの技術の現場で、自分ではあまり技術本来の仕事をせず、下請けなどに仕事を振ることがその企業の人の仕事になってしまう。本来ものづくりの技術を培っているはずのメーカーの技術者が、下請けさんにどの仕事を振って全体の仕事を仕立て上げるか、という手配師になってしまっているというのである。もちろん、手配師も必要なのだが、あまりに多くの人が手配師になってしまうと、肝心の技術は誰が担うのか、という問題が起きる。技術は下請けに、手配のノウハウは親元に、という笑えない話が出てくる。

・ブランドも面白い情報的資源である。ブランドとは、「企業や商品についてのいい情報」という意味で情報である。それが顧客の中に蓄積されていることが、企業にとって価値をもっている。情報の保有者は顧客、しかし資産価値は企業の側に発生、という面白い情報的資源なのである。

・成功する経営統合の鍵は、その二つ(2つの組織観の重複の解消と2つの組織がもっている異なった能力の組み合わせによる新しい競争の武器の創造)を早め早めに行うことである。「人間集団が落ち着いてから、融和してから」では遅すぎる。むしろ、重複解消や組み合わせ効果のための強引にも見える戦略が、人間集団をかえって落ち着かせ、融和させる。なぜなら、現場が変わり成果が生まれてくることほど、融和へと人々を動かす説得材料はないからである。

・作家の開高健氏の言葉に、「悠々と急げ」という名言がある。M&Aは多くの人々の複雑な思いや心理が錯綜しそうな現象で、そこでは心理学がことさら重要になる。大きな安心で「悠々と」、大きな揺さぶりで「急ぐ」、のである。

・さまざまな社会からの恩恵なしには、企業はそもそも存在できない。その存在を、「自分で生きている」と考えるのは思い上がりであろう。企業は社会の中に「生かされている」存在なのである。では、企業はなぜ社会の中に存在することを社会から許されるか。その理由は、企業が社会のどこかで意味があると認めてもらえる製品やサービスを提供しているからである。その製品やサービスを提供できる能力をもっているからである。

・上杉鷹山の「伝国の辞」
1.国家は先祖より子孫へ伝候国家にして我私すべき物にはこれ無く候
2.人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれ無く候
3.国家人民の為に立たる君にて君の為に立たる国家人民にはこれ無く候

・経営改革も、膠着状態から脱出した後にも、改革が継続していかなければ、改革の目的は達成できない。つまり、経営改革の長いプロセスでは、まず膠着脱出のエネルギーが組織の人々に供給される必要がある上に、改革継続のエネルギーもまた供給されなければならない。そうした二重のエネルギー供給に失敗するから、多くの「立派な絵のある改革」が失敗するのである。

・どのようにしたら歴史を加速できるか。その最大の鍵が「ここまでやるかのつるべ打ち」だと思われる。多くの改革を同時多発的に行う。連続的に行う。だから、「つるべ打ち」である。そして、一つひとつの改革は徹底したものにする。「ここまでやるか」と当事者たちが驚くような徹底度にする。(中略)この経営改革には、多くの成功した経営改革に共通する三つのキーワードが含まれている。グランドデザイン、臨界点、不動点、の三つである。つるべ打ちは、グランドデザインの下で一貫性をもって行われている。スピードある同時多発改革は組織全体を改革のモメンタムが生まれる臨界点へと素早く導いた。しかし、大きくすべてのものが変わる中で、変わらないものもまた存在した。不動点である。

・松井証券・松井道夫氏の方程式

<捨てる決断 2-1=3>
<加える決断 2+1=1>

ともに算数の答えとしては間違っている。しかし、人間の心理を考えると、正しい方程式になる。捨てる決断の場合、1をマイナスするから穴が生まれる。その穴を何かで埋めようと懸命に考える。そこから何かが生まれる。あるいは、1をマイナスしたことによってそれが邪魔していた別なものが表へ出てくる。いずれも、マイナスするプロセスから何かが生まれることを意味している。逆に加える決断の場合、1が加わったためにそれまであった2との関係が複雑になる。あるいは、2が安心をする。だから、ねじれや緩みが出る。それが全体の成果を邪魔する。だから、1を加えたのに成果がかえって落ちてしまう。プラスするプロセスで何かが余分になり、それが邪魔をして、結局悪影響が大きいのである。捨てる決断の方程式(2-1=3)が真の決断方程式である。

・自分の企業の、自分に関係の深い業務のところの地図はくわしい。関係が浅くなるほど粗い地図になり、業界の外については半ばお手上げである。そうした精粗がバラバラの地図で経営判断をするから、自分のくわしい事業については細かいところまでつめないと決断ができず、多角化のように他業界への進出などの判断では驚くほどのジャンプをしてしまいがちになる。そうした歪んだ地図での総合判断が常であることを、自己認識しておく必要がある。その認識がないと、とんでもない粗い判断をそうとは知らずにしてしまうことになる。そして、自分の地図の歪みに気がつくように、また歪みを訂正するように、決断をする人は努力する必要がある。自分の地図の歪みをなるべく小さくするための有力な手段が、現実への沈潜である。些細な現場情報まで集め、その情報の中に自分をどっぷりとつけることである。そうした現場情報の「深い風呂」の中に沈潜することから、何が大切か見えてくるものがある。

・多様な出来事、想定外の出来事、雑事、そのすべてにカッカとしていたのでは、さらにはすべてに細かな対応をしていたのでは、とても時間が足りない、体がもたない。だから、流すべきは流し、掉さすべきは掉さして、「まあ、いろんなことが起きる」と全体を受け入れる。そして、大事なことはきちんと処理していく。それが、多様な出来事をのみ込むということである。

・経営するとは他人を通して事をなすこと、「他人に自分が望ましいと思う何事かをしてもらうこと」なのである。それが経営の本質である。しかし、経営者は組織の三角形の頂点にいる。いわば、権力者である。だから、ついつい、部下が自分の意思通りに動くと思い込んでしまうことがある。自分と同じようにできるはずだと思い込む。それは、他人を通して事をなすという経営の本質から、外れている。(中略)他人を通して事をなすという経営の作業は、教育という作業に似ているようだ。経営の要諦とは、次の三つのことをきちんと行うことである。

1.部下たちに仕事全体の方向を指し示す
2.部下たちが仕事をしたくなる、やりやすくなる環境を整備する
3.その後は、彼ら自身が自分で仕事をやるプロセスを刺激する、応援する