開成の校長の話が面白かったので、魚拓します。時代はグローバルですね。校長の人選もグローバルだし。

開成の校長の話が面白かったので、魚拓します。時代はグローバルですね。校長の人選もグローバルだし。

世の中って、自分の想像以上に変わっているのですね。

 

http://ameblo.jp/amok98/entry-11585382798.html

賀茂:今日はよろしくお願いします。(2分間で自己紹介の後)海外進学には向き不向きがあると思うのですが、進路指導はどうするんですか?

柳沢:いい質問ですね。賀茂さんが開成にいた時は進路指導ってなかったですよね。東大に行くのは偏差値が高いからとか学費が安いからとか人それぞれ。海外に出るのもそれと全く同じですよ。

賀茂:そうは言っても東大と違って海外に行くのは多数派ではないので、外れる可能性がありますよね。「成功」した場合でも向こうで就職する場合は何年も日本に帰って来ないケースが多いです。そういったことを早い段階で生徒、保護者に伝えた方がいいのかなと思うんですが。

柳沢:賀茂さんが文IIIに行った時に決めたのは自分でしょ?それと同じことで、生徒の自主性に任せる、それが開成の教育です。けれども、「ここを選択するとこういうのもあるよ」って話してくれる人がいるといいですね。

賀茂:東大に行くのと海外に出るのはやはり違う気がしますけど。

柳沢:それは考え過ぎだよ。東北大に行くのも「外に出る」訳でしょ。

賀茂:でも、「言語の差」があるのでは?つまり、「言語的な自我」が18歳で出来るのだろうか、という疑問があります。

柳沢:じゃ、「言語的な自我」ってどうやって身につけるんだろう。それに、ある程度のレベルまで行ったら別の「言語空間」に行く準備ができる、そういうものなんだろうか?

賀茂:「言語的な自我」があった方が後々楽なのでは、と思うのですが。

柳沢:それは人生観の問題でしょ。ただ、言語に関して言えば誰でも「第一言語」があり、2つの言語が同時に「第一言語」になることはあり得ない。でも、その人間を作り上げる元となる「言語」は「足してなんぼ」のもの。例えば日本語と英語を足して、表現能力が養われ、その人間の個性になるのだから、そういう選択を邪魔するのはおかしい。だから、そういう道を希望する生徒に僕がこういうことを話すのは有利なことだよね。それだけアメリカで経験してるんだから。それだけ開成の生徒は幸せだと思う。

賀茂:まさにその通りですね。僕にも周りに進路を示してくれる人がいれば良かったとは思います。

柳沢:開成の生徒が2100人いれば、みんなが千差万別。でもその中で海外に行きたいっていう生徒が(今年は3人行ったけれども)いる。僕がやってることはその「受け皿」作りなんだよね。生徒の希望が最初にあったから。

賀茂:あ、先生が校長に就任して、「さあ、海外進学生を増やしてやるぞ」っていう訳じゃなかったんですね。

柳沢:違う違う。生徒がやってきて、「先生、アメリカの大学ってどうなんですか」って聞いてきたから説明してあげた。その後、高校2年生が何人かでやってきて、やっぱり説明したら「僕は行きたい」って言うんだ。そういう優秀な子たちの「受け皿」を作ってあげないと、って始まった話なんです。

別の一人は東大の法学部に入学してからハーバードのサマースクールに行って、気に入ったんだろうね。東大辞めて次の年の9月からハーバード行きたいっていうんだ。この場合はね「2年無駄になるから東大卒業して大学院で行きなさい。ただし、ハーバードの学生に負けないように、週に60時間勉強しなさい」って言ったんだ。で、1年経ってからまた会ったから「どうだい?」って聞いたら「はい。週60時間勉強してます。でも、そしたら東大の先生が手放してくれなくなっちゃった」って。

賀茂:それを振り切って外に出てほしいですねえ。

柳沢:そう。あと、僕は採用する立場にいたことはあったけど、「採用される」立場にはなったことがないので、校長に就任した次の年の夏に、英語科の先生にアメリカに視察に行ってもらって、アドミッションには何が必要かを理解してもらって、「進路指導委員会」に入ってもらった。で、高3の間、エッセイの書き方とかアドバイスしてもらったのね。そういう意味ではね、生徒の方が進んでるんだよ。

ただね、僕が言ったのは「学部でアメリカの大学に行ったら、エントリーシートを使って日本の企業に入るようなことはミスマッチが起きるからしない方がいいよ。現地で求人している日系企業だったらミスマッチは起きづらい」ってこと。しばらくは現地の企業で働いて、何年かしてから自分に何ができるか考えてから日本に戻るんなら戻ればいいよ、ってこと。

賀茂:受け皿っていう話は良くわかるんですが、行ってからのサポートっていうのはしないですよね。

柳沢:うん、していない。ただ、海外在住のOBの人たちが、「グローバル開成会」っていうのを作ってて、そういうサポートもしてくれるかなって思ってます。そこが開成の層の厚さっていうことだと思うの。

賀茂:なるほど。ところで、「何でアメリカなんだ。イギリスやフランスじゃだめなのか」っていう声もありますが。

柳沢:うん、イギリスはまず、なかなか受からない。フランスは言語の問題。だから結果としてアメリカ。でも今年は7月6日に開成でcollege fairっていうのをやって、そこにはフランス政府や、シンガポール国立大学、香港大学なんかも来てます。だからアメリカに限ってる訳では全くない。

賀茂:でもマスコミはやっぱりハーバードだイェールだって取り上げちゃいますよね。

柳沢:そう。そこで僕が一番気にしてるのが、「トップスクールだからハーバードやMITに行く」っていうのは止めてほしいということ。というのは、僕の経験からいうとこの2校は最初から行くには競争が激しすぎるので、適切な学校ではない。2、3年準備すれば合格はするだろうけど、能力ではなく、パーソナリティの点で、並大抵の学生だとあの強烈な競争では埋もれちゃう。それよりはイェールや州立大学、もしくはリベラルアーツカレッジの方が適切。で、そこから転学してもいいし、大学院で入ってもいい。

賀茂:具体的に何人が海外に進学してるんですか?

柳沢:今年は一浪を入れて4人。(開成のウェブサイトによれば、アメリカの大学への合格者数は延べ9名、進学者はイェール、ミシガン、Haverfordの3名)

賀茂:あと、海外に出すには、近代史、現代史など、日本についてわかってないとまずいんじゃないか、高校でここをカバーするのは無理ではないかという意見はどう思われますか?

柳沢:開成の日本史は幕末から始まって、1945年までやって、それから縄文時代に戻るの。現代史は倫理、社会、経済でやってもらう。

賀茂:そういう「受験に役に立たないこと」もやってるのが開成なんですが、そういうのを外に発信していく、ということに関してはいかがでしょう。

柳沢:開成って、昔からそういうのが得意ではない学校でした。でも、僕はホームページを充実させて、「開成に入りたい」っていう子どもたちとその親御さんたちに情報を発信しようとしてるのね。

あと、良く、「日本らしさや日本の文化」をしっかり学ばないで海外に出たらまずいとか言うよね。それはおかしい。少なくとも教育者が言ったらいけない。「何をどう準備して、どうやって日本らしさや日本の文化を学んだ」というプロセスを教育者はすべて明らかにしない限りはね。そうじゃないと「反対のための反対」で、何も生み出さない、不毛な議論になります。

賀茂:ところで、開成が卒業生を海外に進学させているっていうのは面白いって思ってるOBが多いんです。だから、「面白そうだなあ」と思って柳沢先生に面会を申し込んだんですけれど。

柳沢:いや、実にいいことです。そうやってマスコミなどに質問されると「考えるきっかけ」になるんですね。情報発信とは言っても、僕は自分から働きかける立場にはないんです。生徒も含めて。「先生、こんなことやりたい」「そうか、じゃ、ちょっと考えてみよう」ってそこから始まる。

世間ではね「柳沢はハーバード出身だから、開成の校長になって、路線を曲げようとしてる」って思われてます。

賀茂:僕も含めてみんなそう思ってると思いますよ。普通東大の教授退官して開成の校長にならないでしょう?

柳沢:いや、そうじゃないよ。開成の校長ってのは最近は開成出身者で東大に行った理科系の人間が多い。君の頃の関口さんは文系で例外的。

賀茂:じゃ、元ハーバードの先生だから開成にちょっと海外進学の風を吹き込んでやろうって乗り込んだんじゃないか、っていうのは違う?

柳沢:あ、それ全然違う。そうじゃなくて、生徒の方からやってくる。それが開成の伝統。元々、「僕はこうなりたい」って生徒が思ったら開成の教育はそこで完了。そうなったら、「じゃ、こうすればいいよ」って教えてあげられる。ただ、東大に関して言うと、開成にはね、古い醸造所じゃないけど、建物の中に麹だか酵母だかの菌が住み着いてるから、ほっといてもそこに行く子どもが多い。だからあまり違和感がなくて、それが当然だなと思っちゃう。それでも中には開成から芸大、例えば油絵を目指す子がいたらものすごく危険な試みなのかも知れない。

賀茂:ところで、東大に入って驚いたのが、開成では目立たなかった奴がクラスのリーダーになったりしてる。やっぱり開成ってのは平均のレベルが高いんだなと思いました。

柳沢:うん、だから僕は卒業式で、「開成の18歳は世界一の集団だ」って言いましたからね。これはハーバードや東大で教えた自分の経験から言えます。

あと、海外に行くっていう話だと、昔から「源氏・陸軍・国粋派」と「平家・海軍・国際派」って言うんだよ。で、平家や国際派は日本の歴史の中では負けてきたの。

賀茂:僕自身、そういう知識がないんですね。自分に一番欠けている。そうでありながら、これから海外に進学する子たちにはそういうところを身につけてきてほしいんですね。

柳沢:でもね、それは知識の総量の問題でしょ。教育って言うのは人類5000年の知識を16年で凝縮して取捨選択して伝えるものでしょ。5000年が16年だから、当然抜け落ちているものがたくさんあります。自分で何かが必要だと思うんならそれから習えばいい。だから、「海外に出るためにはこういう準備をしておかなきゃ」ということではないんです。全部を準備しなきゃいけないっていったら5000年かかるんだよ。

賀茂:ま、そうなんですが、それでも、「こういうことを学んでおいた方がいい」っていうのは誰かアドバイスできる、そしてそれは日本の近現代史じゃないか、という意見があったんですね。

柳沢:僕はこれまで習ったことで人生の役に立ったのは受験の世界史だよ。今でも何を話してもそれ相応の知識があるから。受験で歴史をきちんと勉強するっていうのは非常に役立つよね。

賀茂:いやあ、実は受験勉強っていうのは英語でもとても役に立ってまして、開成を出た生徒っていうのは基礎の英語がしっかりしてるから上達が早い。逆に小学校の英語教育なんて辞めてくれ、それよりは日本語の読み書きをしっかりやってくれと思う方なんですけどね。

柳沢:日本の国語教育っていうのは「漢字教育」だから。それも書き順。このコンピュータの時代に、毛筆でもない限り、書き順なんて必要ないでしょう。文章の読み書きに力点を置くのは賛成です。

今年海外行ったのは一人はずっと日本で育った日本人。二人目はコネチカットで中学まで行って高校にうかって、それからまた戻ったの。三人目は日中のバイリンガルで環境問題がやりたくてアメリカに行った。2100人の生徒もみんな千差万別。

なので、一人一人細かくは見られないけど、海外だとやはり一人一人のケースを見て、適切なアドバイスをすることが必要だよね。だから繰り返しになるけど、「ハーバード難しいから行きましょう」ということにだけはならないように気をつけてます。

あと、今の僕のマイブームはね、「トップダウンアプローチ」なの。小さい子に「大きくなったら何になりたい?」って聞くと「お花屋さん」とか「ケーキ屋さん」とか「宇宙飛行士」とか「消防士」とか答えるでしょ?それが日本の子どもはだんだんそれを言わなくなってて、「大きくなったら何になるの?」「わからない」ってなってる。つまり、中学受験のあたりから偏差値でどこまで行けるか考える、「ボトムアップアプローチ」になってる。だからそうじゃなくて、「将来社会人になったらどういう職業につきたいか」を考えて、「そうするためにはどのような技術や知識が必要か」を考えることが大事だと思う。

となると今度は「どうやってやりたい職業を見つけるか」だけど、それは課外活動で、夢中になれるものを見つけろ、と言います。で、それに関連した職業を見つける。

良く例に出すのは、サッカーが大好きなら、選手じゃなくてもいい。J-リーグチームの選手の身体をケアする医者や、スター選手の契約のアドバイザーを担当する弁護士になる。マスコミもある。そういう風に自分の好きなことと知的な部分が合わさって、職業のイメージができたら、それで決まりじゃない。だからまず「好きなことを中学、高校の間に見つけなさい」ってことだよね。

もう一つ言うのは、「給料というのは社会に貢献している証だから、きちんとした給料をもらえる仕事をしなさい」ということ。

賀茂:貢献と言えば、大学入学にあたってボランティア活動なども一つのポイントになりますよね。

柳沢:アメリカの場合、ご存知のように「学校でのクラブ活動」ってないので、部活をやってることが課外活動になるよね。先輩が後輩を指導したり、運動会で中1チーフだなんてのはもう明らかなボランティアでしょう?で、自分よりも小さな子どもたちを指導する。

賀茂:僕も中1チーフだったんですが、とにかくボートレースの応援みたいな理不尽なことさせたくなかったんです。で、 中1チーフ。

柳沢:ただね、最初の2週間がボートレースでその後運動会まで1ヶ月でしょ。それまでに高3との修復の機会もあると思うんだ。それで非常に良く出来たシステムだと思う。中1ってたいてい高3好きになるし。今は高3にも「倫理委員会」とかあるし、その辺はちゃんとやってると思う。

賀茂:ところで、海外進学っていうことだと灘とか昔から多いんだそうですね。

柳沢:そう。灘とか、筑駒とか、麻布とかは昔から細々とやってたみたいだけど、海外に出すって言うのを一番前面に出してるのは渋幕(渋谷学園幕張高校)だよね。

賀茂:今日たまたま昼食を一緒に取ったのが開成の同級生で東大の経済の教授なんですが、彼の同僚で筑駒から直接MITに行って、学部からPh.Dまで全部そこで取ったっていうのがいました。

柳沢:高校を出て、大学に馴染むっていうのは社会生活そのものだから、そこで僕がいつも子どもたちに言ってるのは、「大学生になるというのは学問を学問として学ぶことが一つだけれど、海外の大学に行くにあたっては、自分が考えたことを言葉に置き換えてちゃんと表現する必要がある」っていうこと。その場合、「以心伝心」や沈黙では何も伝わらない。そういう世界ではない。

で,東大に行ってようがなんだろうが、自分の考えていることをきちんと言葉で表現することが重要。グループリーダーになるためには、どっかで以心伝心のステップを越えなきゃいけない、っていうことなんだよね。なので、MITみたいに競争の激しい所に行くと、埋もれちゃう可能性があるっていうのはそういうこと。どこに行くにしても、その場所に慣れるまでの時間があって、その時間をうまくこなすことが出来た人は生き残れるし、そうじゃない人は生き残れない、っていうことだよね。

賀茂:今日のお話で最初の予想とは全然違ったことがわかって良かったです。

柳沢:どんどんそれを開成のネットワークに広めて、発信して下さいよ。

賀茂:そうしたいと思います。今日は本当にありがとうございました。